朗読絵物語「熱火燃ゆる日」のご案内

ネット朗読絵物語

 として上映される本作品は、いわゆる

オンライン

映像作品として、インターネット上のサーバーから、配信という形で提供されるものです。  主演は、

千葉ともこ

 監修は、

山口十八良

 ディレクターは、

神佑輔

 という布陣で、キャストは主に

劇団ゼロカンパニー、アドレナリン21

 です。  作品のジャンルとしては、

古代史劇

 で、その原作は、

山村

 記念電網作家協会員の手によるものです。

熱火燃ゆる日

熱火燃える日

熱火燃ゆる

熱火燃える

熱火

燃ゆる

燃える

燃る

渡邉とも子

渡邊とも子

渡邉ともこ

渡邊ともこ

「熱火燃ゆる日」 キャプション スタッフ  総監修    山口十八良  原作     清水境一  脚色     井上順一  ディレクター 神佑輔  撮影     坂本匡在  撮影助手   渡邊修一、小沼努  メイク    程瑶、NaoMi、大杉礼香、伊敷恵  衣裳監修   藤間千恵  画像編集   神奈川栄  音楽     桂洋吾  朗読     いぬゐじゅん  制作     山村記念電網作家協会  協力     劇団ゼロカンパニー、劇団アドレナリン21、         (株)A-LIGHT、(有)CPS PLANNING、 キャスト  ランビ ユウヒメ ヒミコ トヨヒメ  藍琵 夕姫 日御子 卑弥呼 豊姫 豊秋津姫                千葉ともこ  アキツメ 秋津女      糸雨愉水  ミマ 美麻         鳴海なのか  ルリ 瑠璃         成田由美  ミズナ 瑞奈        悠稀咲梨亜(守部亜理沙)  トウタイコウ 竇太后    芥川るみ  ミノオサ 巫長 老母    夏野まあや  幼タケハヤ 建速      和田優也  セイオウ 斉王       尾崎圭  カツハヤ 勝速       石田敬祐  カダ 華陀         大野龍巳  ワシキ 輪志木       大穂恭平  ゴシャ 宕紗        石塚正樹  タケハヤ 建速       山口将也  タカキ 多可基       穴井竜次  ゲンショウ 玄升      奈良亘  レイテイ 霊帝       浦野祥鷹  エンユウ 延優       福岡信治  ウゴ 宇胡         和田孝也  クル 久瑠         辻和朗  ムイ 牟緯         中川裕太  キギ 支宜         鈴野正俊  カイ 戈伊         長内和幸  トヨリ 台余里       曽我幸一郎  リュウセイ 龍斉      熊川雄大  ゴリ 牛利         尾崎卓也  コウジュン 杭順      島村光平  リホウ 李朋 ウエツ 烏越 横浜進一  セドモ 瀬度母       渡邊修一  コクヨウ 谷庸       中嶋隆之  オウシ 央弛 サイシ 載斯 西勇人  ヨウメイ 揚明       山本伸一  イヒコ 壱日子       城田将志  コゼ 鈷是 リュウカ 劉夏 坂本匡在  トガン 杜雁        笠原嘉人  ナシメ 難升米       半間拓  カズラ ナリ、クコチ    佐々木怜司  珂都良 那利 狗古智  オシホ 忍穂        小沼努  ハンリョウ 班凌      柿沼照継  老父 シキ 師木      豊田一也  ハンア 樊阿  シュンレイ、トミ、オウキ  舜礼    登美 王顳   後藤公太  ナソガ 那素駕       勝俣英明  シバ 司馬 チョウセイ 張政 英之亮
  熱火燃ゆる日
                      清水 境一

   第 一 章   離 別

    (一)

 吹きすさぶ烈風に、むらがる雲は散り、凍てついた夜空に銀河がある。
 しだいに輝きを増し、燦然と天に満ちる冬の星々の、遠い光の群れがおりなす静寂の
真下に、咆哮する玄海灘の荒波は、いま、賀邪渡王とその妃、藍琵が立つ奴国の岸辺を
あらう。
 黒い海岸に無気味に砕け、風に散る白い波頭の低いひびきに重なって、かすかに遠い
軍勢の叫びがあった。しかし、賀邪渡は、はるかな灰色の水平線に臨んだままじっと立
ちつくしていた。
 背後の夜空を切る黒い丘の稜線のかなたに、いつしか細い火の手があがり、それは時
とともに広がって天を焦がし、ふたりの背を朱にそめていった。

 白日別とよばれた、ここ北九州の地一帯は、紀元前三世紀頃から百余りの部族国家に
分かれ、日々、統合と分裂をくり返していた。
 これらの小国家群のうちでも、特に広大な入り江を持ち、肥沃な沖積平野に恵まれて
いたのは奴国(現在の福岡の内陸部)であった。
 奴国は比較的早期に統一され、また農耕技術、武器の製造技術、航海術などにおいて
他国にまさるものを持っていた。このため、紀元一世紀には大陸との海路交通もしばし
ばあり、当時の強大な統一国家であった後漢に対しても、事実上、倭国(日本)の代表
政権として接していたのである。
 しかし、九州すべてを制圧するまでにいたらなかった奴国は、紀元二世紀に入ると、
しだいに力を得てきた東松浦半島の末盧国と、その連合勢力に、徐々に制海権を侵され
ていった。
 二世紀後半、紀元百七十年、ついに連合勢力は、雷山と背振山にはさまれた、三瀬峠
をぬって奴国の領内に侵入した。
 この戦闘において連合勢力の用いた鉄製武器の威力は、奴の戦いをきわめて苦しいも
のとした。
 それらは倭国で鋳造されたものではなく、おもに大陸において生産され、朝鮮半島の
楽浪郡を通じて九州にもたらされたものだった。連合勢力がこれらを入手していたとい
うことは、末廬に対する漢の援助があったことを示している。
 かつて紀元一世紀中葉、奴国は後漢の光武帝から「漢倭奴国王」印を授与されたほど
の関係を有していた。だが、二世紀初頭、当時の末盧国王、帥升はそうした奴国を無視
して、みずから他の連合国王ともども大陸におもむき、百六十人もの生口(奴隷)を献
じて、漢に朝貢した。そして、漢王安帝に、帥升のひきいる末盧国連合こそ倭の代表政
権であると主張し、倭の平定と治安のため、漢の軍事援助を要請した。
 安帝は、はじめ、この末盧国の要請に対して懐疑的であったが、光武帝以来、倭の代
表勢力として接してきた奴国が、しだいに他国に対する統制力を失ってきている事実を
察知するや、この末盧連合の要請に承諾を与えた。
 安帝の時代、後漢の支配下にあった満州、および朝鮮半島の諸民族の動きはしだいに
不穏となり、これらを牽制するためにも、統一勢力としての倭の存在は、漢にとって重
要なものとなってきたからである。
 奴と末盧の最初の衝突から八年の歳月が流れた。
 末盧連合はこの間、勝利と敗北を繰り返しながら徐々に勢力圏を広げ、巳百支、弥奴
などの近隣小国を支配下におさめ、しだいに奴国を除く九州全域を席巻するかに見えた。
 紀元一七八年末、末廬国王師升の末裔、玄升のひきいる重装の連合勢力三千は、背振
山地を迂回し、那珂川の上流からふたたび奴国の領内に侵入した。
 戦闘は熾烈をきわめた。
 奴国の敗色はしだいに濃くなり、ついに賀邪渡は、居城、奴城宮を捨て、王妃藍琵と
ともに別宮のある志賀島へ落ち延びることとなった。

 夜半の風はさらに強まり、いまは満天の星々の光をさえぎる雲一つない。
 奴の水戸(現、那の津)に設けられた水軍の舟留めにむけて、多数の櫂をそなえた一
艘の影が近づいてきた。
 舟上の将兵が舟着き板にとびおりると、賀邪渡にひざまづいて言った。
「水行の用意がととのいました。ひとまず志賀島まで」
「……きっといつの日にか!」
 賀邪渡は、遠い水平線に目をむけたまま低くつぶやいた。
「藍琵、先に乗るがよい」
「ああ、奴城宮が炎につつまれて……」
「さあ、早う」
 王と妃をのせた舟は、しぶきとともに奴国の岸辺をはなれ、湾をつつむ東の半島の先
に船首をむけていった。
 櫂は規則正しく荒波に切りこむ。
 藍琵は、寒さに震える幼い夕姫をしっかりと抱いていた。
 黒い波涛は、舟を頂につきあげ、谷底につきおとす。天は大きくゆらぎ、舟べりに砕
ける飛沫は風に散って顔にかかるが、それをぬぐおうともせず、賀邪渡はじっと水平線
を凝視したままであった。
 その日焼けした肌に深く刻まれた皺は衰微していく奴国の苦悩を表わしているように
見えた。

        (二)

 刺すような冷たい星々の光をかき消して、遠く赤々と燃えさかる丘陵の火の手のかた
わらから、それを映したような朱い月の光がのぼる。
 一瞬、海面に金色の波がおどり、翻弄される舟と水軍の兵は一群の影絵となって波間
にうきでる。誰ひとり口をきく者もなく、櫂をあやつる兵士らの重く低い声と、砕けち
る玄海の怒濤の荒々しい響きだけがつづいていた。
 果てしない沈黙を乗せ、舟は力のかぎり漕ぎすすめられた。
 烈風はしだいに静まり、冴えわたる月の光が徐々に輝きをましていく。
 やがて海面に漂う淡い月光を裂いて搖れる黒い舟影の行くてに、低く連なり青白く光
る志賀島が近づいてくる。
 志賀島。それは紀元一世紀以来、奴国王の別宮がおかれていたばかりでなく、奴国よ
り外洋に、そして大陸にむかう最前線の基地として堅固な城塞をも有し、水軍に対する
哨戒と防備の要となっていた。特に末盧台頭以後、この地の重要性は増し、常に防人が
派遣され、備えはいちだんと強化された。
 志賀島の砂は黄金色であった。
 いまは中天にかかろうとする月の光を照り返し、海辺は真昼のようにうきでている。
「左舷の岩礁を迂回せよ!」
 凍てついた空気を貫いて水軍の将の声が走った。
 眼前に広がる志賀島の砂浜にむかって、舟はゆっくりと寄せられていった。
 島はこの世のものとも思えぬ淡い光と静寂につつまれていた。
 舟は砂州に引きあげられ、金色の浜辺に黒い人影が散る。賀邪渡は浜におりたつと、
奴城宮のある彼方に目をやった。
 対岸に広がる猛火は一面に赤い光の帯となって、ここ遠い志賀島の浜からも臨むこと
ができた。
「奴国が燃えている」
 藍琵はつぶやいた。
「末盧の玄升もいまだこの地までは追ってまいりますまい。さ、いまのうちに岩室のほ
うへ……」
 言いおわらぬうちに、水軍の将はどっと砂の上にくずおれた。
 鉄の鏃が鈍い光をもって、その胸から背を射通していた。
 賀邪渡は夕姫を抱いたまま呆然としている藍琵を砂上に引き倒し、奴国の兵とともに
みずからも砂に伏せた。
 それはまたたくまのできごとであった。
 浜辺にうごめく人影はない。
 月はさらに天空高く輝き、盛りあがる波涛は轟音とともにこの岸辺に炸裂する。
 長い張りつめたときを破って、賀邪渡の声が響いた。
「末盧の者ども! 姿を見せい!」
 しかし答える声はなかった。
 無気味な静寂に耐えきれなくなった一人の兵が、やにわに砂から身をおこすと長刀を
振りかざし、矢が放たれたとおぼしき砂丘の岩陰にむかって叫声とともに走りだした。
だがたちまち飛来した第二の矢が、その兵を砂に倒した。
 浜辺に、低い、しかしりんとした声がひびいた。
「賀邪渡王! 汝がこの地に逃れてくるだろうこと、すでに予期していた」
 いつの間にか、岩陰から白い装束に身をつつんだ長身の武将が姿をあらわした。その
背後には、少数の黒い影が弓に矢をつがえ、援護の姿勢をとったまま身動ぎもしない。
 武将はゆっくりと岩陰から一歩踏みだすと重々しく口を開いた。
「吾は末盧国王、玄升である。いまだ月のいでぬ刻より、われらは汝を待ちうけていた。
ゆえにわが弓兵らは、まず汝を射ることもできた。しかし、汝もかつて隆盛をきわめた
奴国の大人。たかが雑兵の一矢に落命せんこと無念ならんを思い、ひとたび猶予するも
のである」
 賀邪渡は玄升を見つめながら無言のままむっくりと砂から身をおこした。
 玄升はつづけた。
「ここでひとつ、申しでたいことがある。吾は、もとより戦いを好まぬ。この狭い白日
別(北九州)の地において、同じ倭人がたがいに殺し合わねばならぬ理由がどこにあろ
う。しかし今日、ひとたび大陸や郡に目を移せば、韓族、高麗などの勢力勃興は、もは
や無視しえぬものとなり、郡の任城(現、釜山付近の倭領地)にはその脅威が日一日と
迫っておる。それを見るにつけ、倭は、ひとつに結ばれねばならぬこと、たびたび使者
を送って告げたとうりじゃ。賀邪渡王よ! いま、汝が兵を引き、わが末盧とともに倭
の統一に力を惜しまぬならば、吾はこのうえ戦いをつづける意志は持たぬ」
「聞かぬ!」
 賀邪渡の怒声は砕け散る波の叫びを制してひびきわたった。
「わが奴国の平安を破るばかりか、おのれが領土野心から漢民族と結び、その助けのも
とに諸国を侵し、罪なき民の殺戮をほしいままにする非道者がまやかしごとなど、聞く
耳は持たぬ。倭の王は玄升にあらず。この賀邪渡なり」
 玄升の青白い頬がひきつった。
 賀邪渡はつづけた。
「汝が倭の王たること、なに者が認めたか。漢も認めはしなかったであろう。そは、か
つて後代の漢を打ち建てた偉大なる王、光武帝より、奴国の王こそ倭の王なる旨の印を
うけ、吾がそを所持しているからにほかならぬのだ!」
 玄升は、はやる末盧の兵らを制し、剣を片手にゆっくりと砂丘をおりて賀邪渡に近づ
いていった。
 殺気が浜辺に満ちた。
 賀邪渡の血走った眼は憎悪に燃え、怒りにその口元はふるえた。
 もはや、ことばをかわす余地のないことを知った玄升の顔にも、荒々しい殺意がみな
ぎってきた。
        (三) 

 奴国の王賀邪渡、末廬国王玄升は、いままさに剣をまじえようとしていた。
 兵たちがかたずをのんで見守るなか、二人はたがいに相手をうかがいつつじりじりと
その位置をかえた。
 月は中天にいよいよ明るさをまし、砂におちる二人の影を鮮明にやきつける。打ちよ
せては砕け、そして引く潮の音だけが、ただなに事もなかったように繰り返し、ときの
流れを刻んでいく。

 賀邪渡の口から鋭い気合いがほとばしった。
 切り結ぶ鉄剣の鈍いひびきが浜にこだまし、両者はふたたびわかれた。
 賀邪渡の剣の切っ先をさけきれなかった玄升の肩はあけに染まり、血潮は純白の衣に
しみわたった。
 玄升は大きな荒い息をたてながら、ともすれば不安定になる足元をしっかりと踏みし
めた。しかし賀邪渡が一歩一歩踏みこむにつれて、手傷を負った玄升はじりじりと波打
ち際に後退していった。
 この機に乗じた賀邪渡は咆哮にも似た叫びとともに、真向から玄升におどりかかった。
 賀邪渡のうなりを生じた剣をまともにうけた玄升の剣は、一瞬、真二つに折れて宙に
舞い、玄升は砂に足をとられてどっとあおむけに倒れた。
 末盧の兵はいっせいに剣の柄に手をかけた。
 賀邪渡はすかさず玄升にとびかかり、その上に馬乗りになるや、剣を逆手に持ちかえ、
その胸もと高く振りあげた。
 もはや賀邪渡の剣をのがれることができないと知った玄升は、とっさにそばの砂をつ
かむが早いか、かっと見開かれた賀邪渡の両眼めがけて投げつけた。
 渾身の力で振り下ろされた賀邪渡の剣は不意の逆襲に手元が狂い、玄升の首筋をかす
めて砂に深々とつき立った。
 そのわずかなすきに、玄升は懐剣を引きぬくと、のしかかる賀邪渡の心の臓めがけて
つきあげた。
 すさまじい勢いで血潮がほとばしり、奴国王の断末魔の叫びがあがった。

 一瞬の間にすべてが終わった。ふたたび潮騒があたりを満たした。
 賀邪渡の胸から懐剣を引きぬいて、悄然と立ちあがった玄升は、全身返り血を浴び、
月光にうきでたその形相は、もはや生きた者のそれとは思われなかった。
 両軍の兵は争うことも忘れ、呆然といまは亡き奴国王の周囲をかこんだ。
 藍琵は静かに夕姫を砂上におろすと、賀邪渡のかたわらにより、その顔の砂を払い、
みずからの顔をよせてしっかりと抱きしめた。その肩は小刻みに震えていた。
「藍琵どの」
 玄升は静かに口を開いた。
「吾は、そなたにまで危害を加えようとは思わぬ。末盧の宮までわれらと同道ねがいた
い」
 藍琵は悲痛な表情で玄升を見返すと、静かに立ちあがった。
 月はいつしか西に移り、新しい星々の光が天を満たしていた。玄升はその黒い大空を
仰ぎながら言葉をつづけた。
「奴国王を死にいたらしめた玄升を、お恨みのことと存ずる。しかし、戦とは常に非情
なもの。善悪に照らすことではない。遠い日、いつかこの倭国が統一されるとき、吾も
またなにものかによって踏みこえられていくのかもしれぬ。それは、この美しい星空が
刻々移り変わっていくように、なに人も知ることのできない大きな流れが、吾等を律し
ているからにほかならぬ」
 玄升は末盧の将にむかって叫んだ。
「伊留米! 賀邪渡王を奴国の岩室へ丁重に埋葬せよ。そしてただちに賀邪渡王の死を
報じ、奴国兵の降伏をうながせ!」
「玄升、覚悟!」
 藍琵は隠し持っていた懐剣を引きぬくが早いか、玄升に体当りしていった。
「なにをする!」
 玄升は身をかわし、剣は空を切った。
 次の瞬間、藍琵はそれをみずからの胸につき立てた。
 よろめきながら藍琵は夕姫のかたわらによるとそのまま砂にくずおれた。
「藍琵どの! ……さほどまでに」
「……玄升どの、あなたは情け深いかた。わたくしは、はじめて知りました。しかし、
わたしは一ときとて賀邪渡の仇と同道することはできませぬ。 ……ただもし、あなた
の情けにすがることが許されるならば、……ただひとつ ……この夕姫を ……どうか、
りっぱに……」
 玄升は、みるみる血の気のひいていく藍琵の耳もとに口をあてて叫んだ。
「藍琵どの! そなたが願い、たしかに聞いた。安心するがよい!」
 藍琵は微笑をたたえ、何度かうなずくと、そのまま静かに息をひきとった。
 血潮は砂を紅に染め、幼い夕姫は死せる母の胸もとでやすらかに寝入っていた。玄升
は夕姫をそっと抱きあげると、静かにあゆみだした。
 東の空がいつしか白み、あさの光は砂上に横たわるふたりに長い影を与えた。